中小企業の経営者に必要な4つの知識とスキル
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ワンランク上にシンカするための一歩ブログ
悩みやストレスを抱える心理状態は、必ず次の3つのどれかに当てはまります。
①自分が正しく他者がダメ(自己肯定・他者否定)
②自分はダメで他者が正しい(自己否定・他者肯定)
③自分も他者もすべてダメ(自己否定・他者否定)
ちなみに、他者とは自分以外のもの・ことを指します。
つまり、人だけでなく、出来事、社会、道徳観念、社会規範といった「私」でないものすべてをまとめて他者と表現します。
例えば、何かにイラつくときには「その人や状況がダメだ」と思っていますが、このときは自分の考えが正しいという前提で他者を否定していることになります。(自己肯定・他者否定)
失敗して落ち込むときには「自分はダメだ」と思っていますが、このときは自分の理想通りになっていないことで自分を否定しています。
つまり、自分の理想は正しいという前提で自分を否定しているわけです。
このときの「理想」とは、自分ではない「他者」となります。
ですので、「自分はダメだ」と思うのは、他者を肯定し、自分を否定していることになるのです。(他者肯定・自己否定)
何もかもうまくいかず、自暴自棄になっているときは、「こんな自分はダメだし、こんな世の中もダメだ」と思っています。
これは自分を否定していると同時に、世の中という「他者」を否定していることになります。(自己否定・他者否定)
このように、あらゆる悩みやストレスを抱える原因を分析していくと、いずれも自分や他者を否定的にとらえていることがわかります。
本当にこの3パターンしかないのか、と疑問を持たれた方のためにも、もう少し詳しく説明していきたいと思います。
「自分は正しく他者はダメ」と思っているときには、怒りの感情が湧いてきます。
周りの人や物事が自分の思い通りになっていないときにイライラしたりムカついたりするのは、「自分の考え方は正しくて、周りの人や物事が間違っている」と思っているからです。
また、「うまくいくだろうか?」と不安になるときも、この心理状態となっています。頭の中で「他者は自分の考える通りになってしかるべき(他者が自分が考える通りにならなくてはダメ)」と思っているのです。
自己正当化や言い訳をするときも、この心理状態です。自分の主張は正しくて、それを理解しない相手は間違っていると考えているのです。
「自分は正しく他者はダメ」という心理状態の例
・自分の思い通りでないと気が済まない。
・自分の意見や行動を受け入れない相手を批判する。
・自分は悪くない、被害者だと考える。
・うまくいかない理由を他人や環境のせいにする。
・自分の意見を押しつける・他人の良い点よりも欠点に目が行く。
うまくいかなくて落ち込んでいるとき、人は『私はダメで他者は正しい』と思っています。
このとき、「私はこうあるべき」という理想通りでない自分を否定しているのですが、その理想は自分以外のもの(他者)ということになりますので、「理想(他者)は正しく、自分はダメ」という図式が成り立っています。
仕事でとんでもないミスをして「私はなんてバカだったんだ」と自己嫌悪しているときも、この心理状態です。
「私はこうすべきだった」という理想と比較して自分を否定しているのです。
自分に自信が持てなくて前向きになれないときは、「それをできることが正しく、できない自分はダメだ」と考えているので、これも自己否定・他者肯定です。
「私はダメで他者は正しい」という心理状態の例
・他人より自分が間違っているのではないかと思う。
・優秀な人と比べて自分はダメだと落ち込む。
・必要以上に自分の責任を感じる。
・過去の成功よりも失敗の方に注目する。
・自分の長所を見ず、欠点を直したいと思う。
・自分には無理ではないかと思って自信が持てない。
「自分はダメ人間だけど、この社会だって夢も希望もないダメなものだ」といったように、「自分も他者もすべてダメ」と虚無的な心理状態に陥ると、人は引きこもります。
他人から否定され、うちひしがれて自信喪失すると同時に、自分が生きるこの世界もろくなものではない、と思っているのです。
「自分も他者もすべてダメ」という心理状態の例
・自分は無価値な存在だと感じる。
・他人から励ましや思いやりの言葉をもらっても気休めにしか感じられない。
・未来に希望が持てず何も行動する気になれない。
・他人とコミュニケーションをとることに恐れや不安を感じ、「誰とも関わりたくない」と引きこもる。
悩みやストレスから解放されるには、「自分が正しく他者がダメ」「自分はダメで他者が正しい」「自分も他者もすべてダメ」といった心理状態を「自分も他者も正しい」に変えることが必要です。
「自分も他者も正しい」心理状態とはどのようなものなのか、その状態になっている人の態度は、例えば次のようなものです。
「自分も他者も正しい」心理状態になっている人の態度①
問題が起きても、「すべての出来事には何らかの意味がある」と考え、過去を引きずらず、これから先どうすればいいか?と、未来について前向きに考える。そして、「今、自分に何ができるか?」と考えて、現在やるべきことに専念する。
「自分も他者も正しい」心理状態になっている人の態度②
「このミスは大したことじゃない」と問題を過小評価せず、逆に「こんなミスをしたらもうおしまいだ」と過大評価することもない。どんなミスがあったのか、事実を客観的に把握しつつ、反省すべきは反省してこの経験を今後に生かそうと考える。
「自分も他者も正しい」心理状態になっている人の態度③
他人がミスをしたとき、次のように考える。
「誰でもミスすることがある」
「この人なりに考えて行動したことだ」
「悪いものは悪い。ミスを反省して償うことは重要」
つまり、「罪を憎んで人を憎まず」といった大きな心を持っているのである。
「自分も他者も正しい」心理状態になっている人の態度④
この世に存在するもの、起こった出来事すべてが重要で意味があるものだと考える。
だから、自分の思い通りにしようと執着することはない。
何ごとも偏見を持たず、事実を事実としてありのままに受けとめる。
「自分も他者も正しい」心理状態になっている人の態度⑤
どんなことがあっても、それはそれでひとつの結果に過ぎないと受け止めて、良い悪いという評価をしない。だから、心が不安定になることはなく、悩みやストレスを抱えることがない。
「自分も他者も正しい」心理状態は、言わば「悟りを啓いた状態」「無我の境地」です。
これこそが、私たちがめざすべき理想の心理状態だと言えるでしょう。
なぜ私たちは、自分や他者を否定的にとらえてしまうのでしょうか?
それは理想に執着しているからです。
「相手はこうあるべき」「こういう状況になってほしかった」「自分はこうすべきだった」「自分はこうあるべき」といったように、理想に執着していることで、その通りにならない現実を否定的に考えてしまうのです。
ですから、理想の執着を手放せば、自分や他者を否定的にとらえなくなって、悩みや苦しみから解放されます。
では、理想を手放すためには、どうすればいいのでしょうか?
そもそも、理想を手放すというのは、どういうことなのでしょうか?
先ほどの3つの心理状態それぞれについて、考えていきます。
他人に対して怒りが湧いてくるのは、その人を条件つきで見ているからです。
よく考えればわかることですが、世の中はすべて自分の思い通りになるわけではないのですから、条件をつけるのは無意味なことです。
条件を外すには、その人を自分と同じ一人の人間として見ることが必要です。
その人は私のために存在しているのではなく、その人自身のために生きているのです。
また、期待通りのことをしてくれなかったときに怒りが湧いてくることがあります。
このとき考えたいのが、「その期待は適切だったか?」です。
相手には相手の事情がありますし、相手の能力や経験によってはできないこともあります。
過大な期待を勝手に抱いていないか、よく考えてみることが必要です。
他人を否定してしまうのは、自分の理想を押しつけているからです。
しかし現実は、自分の思う通りになることもあれば、そうならないときもあるものです。
「あんなことをしないでほしかった」と思っても、相手は相手の意思で行動しているのですから、理想通りにならない時があるのは当然のことなのです。
自分を否定してしまうのは、自分の理想通りの行動ができなかったからです。
しかし、「常に」理想通りにできる人はいません。
ときには理想通りにできないこともある、という現実を忘れないようにしたいものです。
つい自己否定してしまうのは、その人にとって自己否定するメリットがあるからかもしれません。
自分を肯定するのがなぜか心地良くない。自己否定することで悲劇の主人公のような感傷に浸れる。自分に自信を持てなければチャレンジをしないので、失敗せずに済む……。このように、自分を肯定するよりも否定しておいたほうが安心で安全であると感じている可能性があります。
自己否定することで、自分を保ち続けているとも言えます。
つい自己否定してしまう人は、自分の欠点ばかり見ずに、良い点も見るようにすることが役に立ちます。
例えば、「期限が守れなかった自分はダメな人間だ」と思ったら、『期限を守ろうとする私は、真面目で責任感が強く、もっと仕事ができる人間になりたいのだ』と考えてみるのです。
自分を否定してしまうのは、実は、それ自体にも肯定できる要素があります。
自己否定するのは、理想をめざす向上心、成長意欲、真面目さ、責任感、誠実さ、謙虚さがあるからです。
結果を反省して次に生かすことは重要ですが、自分を過度に責め続ける必要はないはずです。
過去のことで自分を否定するのは意味がないことです。
「あのとき、ああすべきだった」「なぜあんなことをしてしまったんだろう」と思うのは間違いで、「あのときは、自分なりに一生懸命やっていた」「あのときは、あれで良いと思ったんだ」と考えるのが本当は正しいはずです。
めざす方向性は、自分を肯定するとともに、他者も肯定することです。
そのためには、前述した「自己肯定・他者否定」「自己否定・他社肯定」それぞれの心理状態から抜け出す方法の両方を取り組むことが役に立ちます。
理想に執着することで自分や他者を否定し、それによって自分が苦しむことになる。だから、理想への執着を手放すことができると、悩みやストレスはなくなり、精神的に楽になります。
勘違いしないで欲しいのですが、理想への執着を手放すのは、理想をあきらめることではありません。
そもそも、理想を持つのは決して悪いことではありません。理想を持っているおかげで、これまで成長・成功して来れたのです。
理想は、私たちが成長する上で必要なものです。
重要なのは、理想を持った上で、その理想に執着しないことです。
理想に執着しているときには、視野が狭くなっています。
ですから、視野を広げることが、理想への執着を手放すために役立ちます。
視野を広げるためには、次のような質問を自分自身に問いかけてみるといいでしょう。
「この理想は今すぐ実現可能だろうか?」
例えば、「新人は自分で考えて仕事をして欲しい」という理想を持っていても、今すぐ実現は難しいはずです。
相手にとって難易度の高い理想かどうか考えれば、じっくり指導していく必要性がわかるでしょう。
「本来の目的はなんだろうか?」
例えば、「この目標は絶対に達成したい」という理想は、必ずしもその目標を達成しなくても、本来の目的を達成する方法が他にあるはずです。
目標達成が目的化していないかどうか、定期的に考え直してみることは重要です。
「この理想が実現しないと本当にダメなのだろうか?」
理想通りの展開になったとしても、それがかえって悪いことにつながる可能性もあります。
故事成語の「人間万事塞翁が馬」で示唆されている通り、理想通りになることの良し悪しは、今はわからないのです。
「プラスの側面を見失っていないだろうか?」
焦ってIT化を進めたら、社内の雰囲気が悪くなった。実はアナログ部分でコミュニケーションが図られていた、などいう話は起こり得ます。
焦って理想を追い求めることにも良し悪しがあるものです。
「比較対象は適切だろうか?」
理想通りになっていないと考えるのは、頭の中で何かと比較しているからです。優秀な大先輩と比較して「自分はダメだ」と思うのは無意味です。
理想を高く持つのは大事ですが、比較する対象を間違えないようにしなければなりません。
理想への執着を手放せないのは、手放さないことにメリットがあるからです。
こうありたい、こうすべきだという理想に執着するからこそ、それを実現するために努力するのです。
もし執着を手放してしまったら何を失うのか、何を恐れているのか、考えてみることが執着を手放すためには役に立ちます。
思い通りに進展しなかったり想定外のことが起きると心が不安定になりますが、理想はあくまでも理想であり、現実は必ずしも理想通りにならないことを忘れずに、今できることをやり続けることが重要です。
理想に執着して心が不安定になっていることに気づいたら、自分も他者もすべてをありのままに受け入れるように意識してみましょう。
たとえ理想通りになっていなかったとしても、そういうときもある、という現実を思い出すのです。
完璧な人は誰もいません。人は皆、常に未熟な存在なのです。
現実が理想通りにならなくて怒りが生じたり落ち込んだりしても、忘れていけないのが、人生はまだまだ続くということです。
自分や他者を否定するのではなく、「今は成長過程なだけ」「今はまだ機が熟していないだけ」と考えることができれば、それはとてもすばらしいことです。
最後に、自分や他者を否定しているときに、自分も他者も肯定するための考え方をご紹介します。
悩みやストレスを抱えたとき、イライラしたり落ち込んだり憂うつな気持ちになったとき、これらの言葉を読んで視野を拡大し、ぜひ「自己肯定・他者肯定」の理想の心理状態をめざしていただきたいと思います。
人は皆、完璧ではなく常に未熟。
未熟だからこそ過ちを犯すことがある。
過ちを犯したときに、素直に反省できる精神レベルの高い人もいれば、認めようとしなかったり、過ちがあったことすら気づかない未熟な精神レベルの人もいるものである。
人は皆、試行錯誤を繰り返しながら自分のペースで成長していく。
失敗の経験がないと人は成長できない。
だから、失敗で自分を過剰に責める必要はない。
そのときの自分は、それでいいと思ってやったのだし、そうするしかできなかったのだ。
人はそれぞれ自分の人生を生きている。
その人なりに考え、その人なりに一生懸命やっている。
自分も他人も同じく一人の人間であり、同じくらい尊重されるべき存在である。
人は皆、私と同じように自分自身の人生を生きるために存在しているのだ。
自分の思う通りになるときもあれば、ならないときもある。
だから、自分の思い通りにならないときに、その原因を他人や周りのせいにするのはあまり意味がないことである。
自分の過ちは自分の一部分であって、自分全体ではない。
他人の過ちもその人の一部分であって、その人全体ではない。
過ちひとつで、自分や他人を良い人・悪い人と決めつけるのは意味がないことだ。
人は、良いことが起きると喜び、悪いことが起きると嫌な気持ちになる。
しかし、起こった出来事を良い悪いと考えるか、すべて重要で意味があると考えるかは、自分次第。
つまり、自分の気持ちは自分次第なのだ。
私たちが生きていく上で、この先さまざまな出来事が待っている。
悪いこと・嫌なことも必ず起きる。
それらはすべて、自分を高めるための試練。
私たちは、そうやって人間としての高みをめざすために生きているのかもしれない。
ちなみに、このコラムの「4つの心理状態」については、以下の拙著で詳しく解説しています。
『「仕事がイヤ!」を楽にするための本』(2005.10、秀和システム)※1
『仕事の悩みを引きずらない技術』(2013.8、PHP研究所)
『心理カウンセラーが教える なぜか気が乗らないときに読む本』(2018.6、Panda Publishing )※1のリメイク
★本コラムで説明している「自分も他者も正しい」心理状態になる方法を詳しく学んでいただくためのワークショップを定期的に開催しています。(詳細はこちらをご覧ください)