なぜ私たちは「孤独」なのか?

「孤独が今や深刻な問題となっている」と聞いて驚く人はおそらく誰もいないでしょう。
 なぜ私たちはこれほどまでに孤独になってしまったのでしょうか?
 人とのつながりを感じるためにはいったいどうすればいいのでしょうか?

 孤独を感じる原因、そして、その対処法について、本稿では、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授ノリーナ・ハーツ女史の著書『THE LONELY CENTURY~なぜ私たちは「孤独」なのか』を参考にしながら、私自身の心理カウンセリングの知見を交えて考えてみたいと思います。

 これを読まれる方にぜひお願いしたいのが、この内容をご自身の本質的な課題を洞察するために役立てていただくことです。そして、その洞察が人としてより高次の生き方をするためのヒントになれば幸いです。

今どのような孤独が生じているのか?

 まずはあなた自身について考えてみてください。最近、自分が孤独だと感じることはありますか?
 たとえば、次のような感覚に思い当たることはありませんか?

周りの人と心理的な距離を感じる。
気楽に話せる相手がいない 。
自分は取り残されていると感じる。
困ったときに頼れる人がいない。
自分のことをわかっている人は誰もいない。
自分のことを気にかけてくれる人が周りにいない。 
人間扱いされていないと感じる時がある。
差別されたり排除されていると感じる時がある。

 私たちは、周りに親しい人がいなかったり、他人との接点がないときに孤独を感じます。しかし、会社や学校などで周りに人がいても孤独を感じるときがあります。SNSで頻繁に交流しているのに孤独を感じている人が多い、という研究報告もあります。

 引きこもったり、孤立したりなど周りに人がいないならまだしも、他人との接点があるにも関わらず孤独を感じてしまう。これが現代の孤独の特徴のひとつだと言えます。

孤独が深刻な問題となっている

 孤独は様々な問題を引き起こします。まず挙げられるのが、メンタル不調の問題です。
 落ち込む、憂うつになる、自己肯定感が下がる、自信が持てなくなる、悲観的になる、自暴自棄になる・・・。孤独を感じている人は、こういった気分的につらい状態に陥りやすく、それが長く続くと、うつ病などの精神疾患に発展していく恐れもあります。

 また、孤独はメンタル面だけでなく、身体的健康面にも悪影響を及ぼします。
 薬物の過剰摂取やアルコール依存になったり、運動をしなくなって生活習慣病になったり、慢性的なストレスによって免疫力が低下して細菌やウイルスに感染しやすくなったりします。

 意外なところでは、孤独になると不安や恐怖から周囲に対する警戒心が強くなり、自己防衛のために攻撃的になると言われています。孤独な人ほど、いつも不安で他人を信用できなくなり、不寛容になるのです。差別やいじめや暴力は、心のどこかに存在する孤独感によるものだと言えるかもしれません。

なぜ周りに人がいても孤独になるのか?

 ノリーナ・ハーツは著書『THE LONELY CENTURY』の中で、孤独について次のように説明しています。

「孤独とは、他人を身近に感じたいという欲求と同時に、自分の声に耳を傾けてもらい、自分に目を向けてもらい、気にかけてもらい、行為主体性を持ち、フェアで親切で敬意を持って扱われたいというニーズの表れでもある」

 この言葉からわかるのは、周りに人がいても孤独を感じる理由です。つまり、いくら誰かと物理的なつながりがあっても、これらのニーズが十分に満たされていると感じられないために孤独を感じてしまうのです。

 もう一度言います。

「他人を身近に感じたい」
「自分の声に耳を傾けてもらいたい」
「自分に目を向けてもらいたい」
「自分を気にかけてもらいたい」
「主体性を持ちたい」
「フェアで親切で敬意を持って扱われたい」

 これらは言うなれば、他人との絆を持ちたい欲求であり、絆が感じられないときに孤独を感じてしまうのです。

 ところが、今の時代の風潮が絆を持つことの邪魔をしています。象徴的なのが、個人主義的な風潮とコンタクトレス(非接触)の風潮であると、ハーツは指摘します。
 自由を極端に重視し、個人の利益を追求することは、現代人の人間関係や市民的義務を根本から変えてきました。地域社会や集団の利益よりも個人の利益を上に位置づけることで、大多数の負け組は大きな孤独を味わうようになり、勝者ですらも誰も頼りにできずに孤独にさいなまれるようになってしまう。そのような中で誰かと絆を持つのは難しいことです。

 また、伝統的なコミュニティ活動や面倒な付き合いは毛嫌いされ、現代人は他人と接触する機会を積極的に減らそうとする。このコンタクトレス(非接触)の風潮が、周りに人がいても孤独を感じるという事態を引き起こしています。人間関係ストレスを避けることが、皮肉にも絆を持つことも遠ざけ、孤独につながっているのです。

孤独を感じたらどうすればいいのか?

 現代社会が孤独を生みやすい環境になっていることを考えると、孤独に陥らないようにする、あるいは、孤独を解消するのはとても難しいことだと言えるかもしれません。とはいえ、環境のせいにしていても何も始まりませんので、現状の中で自分にできることをするしかありません。 

 誤解のないように言っておきますが、孤独に陥った人を周りが助ける必要はない、あくまでも自己責任だ、と言っているわけでは決してありません。自分の孤独をなんとかできるのは、結局のところ本人しかいないと言いたいのです。本人に孤独を抜け出そうという意識がない限り、周りがいくらサポートしても役には立ちません。

 もちろん、孤独は社会全体に影響する大問題ですので、社会の構成員全員がそれぞれの立場で全体に貢献できることを考えて実行していく必要があります。だからこそ、まずは自分にできることとして、自ら孤独にならない努力が求められるはずなのです。

 そこで最後に、孤独にならないために私たちは個人的にどうすればいいのか、どうすべきなのか、について具体的に考えていきたいと思います。

やってはいけないこと・やめるべきこと

 まず始めに考えたいのが、孤独を自ら助長する行為をやめること。孤独を感じる人は、知らず知らずのうちに、孤独感を深める行為にはまってしまっている場合が多いものです。だから、それをやめるだけでも孤独は軽減されていくことが期待されます。

 孤独感を深める行為として今や大きな問題となっているのは、スマートフォンの利用です。スマートフォンの利用は、周囲の人との交流の時間を奪います。先ほど、孤独を感じるのは他人との絆を持てないときだと説明しましたが、周りとの交流が減れば、当然ながら、他人との絆をつくるチャンスも減ります。

 さらに悪いことに、スマートフォンの利用は、対面コミュニケーションスキルを低下させる要因となります。コミュニケーションスキルは、他人と親密な関係を築く上で極めて重要なスキルであり、場数を踏むことによって維持・向上されます。ところが、コミュニケーションの機会が少ない中では、そのスキルが低下する一方となり、その結果、他人と絆を持つことも難しくなります。

 ノリーナ・ハーツによると、SNSの利用時間を制限する実験を行ったところ、孤独感が大幅に低下したという研究結果があるそうです。SNSの利用を制限することで、インターネット使用時間そのものが減り、友達や家族と対面で交流する時間が増え、人生に対する幸福感や満足感が高まると同時に不安も低下し、孤独感も低下したと言うのです。

 さて、このようにスマートフォンの利用が孤独を助長していることがわかったとしても、まったく利用をやめるのは現実的ではないかもしれません。そこで、まずは利用時間を減らすことを考えてみることを提案します。

 特に減らしたいのが、SNSとゲームに費やす時間です。空き時間にやるのはやめて、1日のうちどの時間にやるかを決めて、それを守るようにする。孤独が引き起こす様々な問題を考えると、重要な一歩になるのではないかと思います。

やったほうがいいこと・役立つこと

 次は、孤独を解消するためにやったほうがいいこと、役立つことです。

 孤独を解消するというのは、言い換えると、他人との絆をつくることです。絆をつくるためには、対面でのコミュニケーションが不可欠です。会ったことがない人、会話(もしくは会話と同等の交流)がない人と絆をつくることはできないからです。
 とは言え、孤独を感じている人は、他人と対面でコミュニケーションすることに対して苦手意識が強くなっているものです。そこで、その苦手克服を兼ねてカウンセリングを受けてみることをお薦めします。

 なぜカウンセリングがコミュニケーションの苦手克服になるのでしょう?

 カウンセリングでは自分のことを話すのがメインとなります。自分が感じている正直な気持ち(不安、恐れ、悲しみ、怒りなど)を他人に話すのは勇気がいるものですが、気持ちを素直に言い合えると絆は深まっていきます。気持ちを伝えることで相手との心の壁が取り払われるのです。

 カウンセラーはあなたが安心した気持ちで話せるように安全な場を作ります。カウンセリングを通して正直な気持ちを素直に言える体験に慣れることで、身の回りの人にも自分のことを話せるようになります。絆をつくるための基礎が磨かれていくというわけです。

 そして何より、カウンセリングを受けることによって自分の中の孤独が癒されます。親身になって話を聞いてもらうことで、自分の気持ちをわかってもらえたという感覚が湧いてきて、それが他人とコミュニケーションすることの不安を乗り越える勇気を与えてくれます。

 こうやって自分で自分の殻を破ることによって、生きていく上でかけがえのない大切なものを手に入れることができるのです。

おわりに

 地域や会社組織などにおける交流活動の縮小、自己責任が求められる競争社会、スマートフォン依存による対面コミュニケーションの減少など、ライフスタイルや価値観の変化によって、他人との絆を構築するのが難しくなっていることが、現代社会に孤独がまん延するひとつの要因として考えられています。

 孤独は自分を取り巻く環境の影響を大きく受けますので、自分でも気づかないうちに陥ってしまいます。社会全体としての対策も求められますが、個人として自分のためにできることがあります。そのための具体的な取り組みをご紹介しましたので、必要に応じてお役立てください。

参考文献
『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』
(ノリーナ・ハーツ著、ダイヤモンド社、2021)